冬山巡視の八幡平は小屋泊まりで行います。本日も悪天候ですが、樹氷原の竹竿追加の取り付けの鹿角市山岳会の皆さんに同行します。先回の巡視「八幡平Ⅰ」は悪天候のため途中から引き返したのですが、今日はどこまで頑張れるかと内心は思っています。

冬の指導票174番通過、視界不良。

今年は雪が多く、4mの竹竿が埋まったり、折れたりで山岳会の皆さんは田代沼にデポした竹竿を追加で取り付けるのが目的だそうです。それにしても視界不良。

濃霧(ホワイトアウト)が続きます。山頂まで600mの距離、藤助森山頂にデポした予備の竹竿(古竹なので折れやすい)も使用する判断をして山頂に向かいます。

かろうじて山頂300番の指導標のシルエットが見えています。竹竿の位置で立ち止まり、山頂方向を見ていますが、進行方向の2本の竹竿がわかりますか?

いやぁ~吹かれた、やれやれとばかりに陵雲荘に到着です。山岳会の皆さんはここで遅い昼食をとり、下山しました。ここからが私たちの本番なのですが、この視界では動きようがありません。

ところが、午後4時ごろ外に出てみると視界が広がっていました。久しぶりに見る八幡平の樹氷景色です。遅ればせながら活動開始。見返峠付近にスノーモービルのトレースが見えるか、確認をしようと思います。

振り返ると陵雲荘越しに、小さなピークの源太森方向にみはるかす樹氷原が広がっています。

樹氷の姿は毎年違いますが、今年は樹氷が溶けて落ちる日がないくらいの厳しい天候が続いたようで、見返り峠方向にこんもりした枝の突き出ていない樹氷たちが自由に並んでいます。

日中の天候が厳しかっただけに樹氷の夕景はどこやら安堵感を感じてしまいます。

ずっと吹かれていたので、静寂の中、この先は、この先はと景色が見たいという衝動にかられ、歩き続けています。風が冷たく、隠しようのない露出した手首とほほが、痛いと悲鳴を上げています。

今年の天候、強烈な風を証明するかのような樹氷の正面からの姿。エビのしっぽだらけの立体的な造形の一つ一つに、ついつい見入ってしまいます。

穏やかな樹氷の夕景は大好きな景色。広大な樹氷原に我々だけ、貸し切りの贅沢なひと時。

見返り峠のパークサービスセンターとレストハウスは雪に覆われた景色の一部と化していました。

と、不自然に残るまっすぐに伸びる直線に気づき、現実に引き戻されてしまいました。

スノーモービルのトレースのようです。藤七温泉方向に延びています。もちろんこの付近は国立公園の特別保護地区内なので自然公園法の違反行為となります。明日はその確認に出かけることになりました。

そろそろ日没なので、鏡沼、眼鏡沼を回ってガマ沼のふちを通って陵雲荘に戻ろうと思うのですが、進んでは立ち止まり、カメラを出してはしまう、の繰り返し。

鏡沼の西側には雪が一杯つき、大きな雪庇ができています。

穏やかな夕景の中、名残惜しくて、振り返り振り返り帰路につきます。

暖かくて快適な小屋泊まりでした。

さて翌日・・・また昨日の天気、濃霧、ホワイトアウトでした。山頂方向に向かうこの視界不良では藤七温泉までは行けそうもありません。せめて昨日見たスノーモービルのトレースのところまでは行こうと思います。

行こうとは思ったものの、夏道をトレースのつもりが巨大なツリーホールを避け、迂回の連続で一苦労。方向の確認をしています。

ようやくパークサービスセンターのシルエットが見えてきました。

容赦のない強い風雪は建物を冬景色と一体化させ、かろうじて見えている建物にはヒトの痕跡を感じさせるとでもいうのでしょうか。

そしてスノーモービルのトレースはストックで指した位置に数台分のトレースが残っていました。数日前のものなのでしょうが、藤七温泉に向かったのか、またはその逆なのかはわかりません。この方たちは公園法の違反行為であることを知っていたのでしょうか。この付近のトレースは毎年見かけています。

駐車場の展望台は大きな”シロクマ”と化し、なかなかの迫力と自然の造形の面白さ。隙間がないほどについたエビのしっぽは、この場所の風雪の猛烈さを物語っています。

視界は次第に開けてきましたが、ここで戻ることにしました。

天候は刻々変わり、視界が開けたりホワイトアウトしたり。それでも雲の切れ間から陽が差すと、樹氷原にスポットライトが当たったように見えます。恥ずかしいことに”おお~”と歓声を上げてしまいます。

八幡沼が見えるあたりまで来たときに、ほんのご褒美のつもりなのか上空に彩雲が見えていました。

ラッセルにも風雪にも耐えてこそ見ることができる。”八幡平の樹氷原は登山者の聖地”と誰かが言った言葉が頭に浮かんできます。春三月、”ここに吹く風も春風”でした。

来週は茶臼岳。

   あべ