昨年の秋田県はツキノワグマの出没件数が特に多く、不幸な事故も多数ありました。私たちはこの八幡平地区を日本で一番ツキノワグマに遭える場所だと豪語していますが、人にとっても、またクマにとっても不幸な事故を防ぐため訪れる人たちにクマのことをお知らせしていかなければならないと考えています。
 そんなクマへの理解を高めていただくきっかけになればと今回は関係者向けにクマモニターツアーを開催しました。

 舞台は冬の八幡平、秋田八幡平スキー場。当日の天気は快晴。青空に輝く太陽が真っ白なゲレンデに照り返します。

 まだ雪が降り続いているため、今シーズンまだまだ滑りたい!というスキー客で賑わっています。

 天気が良く、国見台や栂森がとても近くに感じます。

 クマの住処と人間の住処が隣接する八幡平。スキー場リフトのすぐ近くにクマ棚を発見しました。木登りが得意なクマは食事の際、ドングリのなっている枝を器用に折り、それが樹上に積み重なってできたものがクマ棚と呼ばれています。ここ八幡平ではたくさんのクマ棚があり、特に落葉の冬には簡単に見つけることができます。

 性格の現れでしょうか、木によってクマ棚のでき方も違います。

 樹皮にはクマが木登りをした際にできた無数の爪痕が残っていました。爪痕の向きや形でおおよその登り方は予測はできますが… このクマはいったいどのような登り方をしたのでしょうか。

お隣のシナノキにも爪痕が残っていました。

そのまた隣のブナにも。至るところで古いものから新しいものまでクマの木登りの爪痕が発見できます。

 こんなにたくさんの爪痕が残るオオシラビソもありました。はじめ樹皮の模様と思われた線はすべて爪痕だったのです。きっとクマにとって魅力的な「何か」があるのでしょうね。

 さて、ブナ林をどんどん奥へと進んでいきます。八幡平は現在2mの積雪があり、夏は歩くのが困難な藪が隠れ、その上をどこまでも歩くことができます。

 シナノキの樹洞を観察します。これほど口が大きく開いた樹洞は冬眠には適しませんが、夏の間避暑や休憩などで使われるようです。中にはたくさんのクマの爪痕が残っていました。せっかくなので中に入ってみます。クマの気持ちになれたでしょうか。

 クマ棚から枝が落ちてきていました。ブナのドングリの殻斗(帽子の部分)をかじった痕が残っています。このような食痕を見るとブナ林は豊かさの象徴でもあることに気づかされます。

 調査体験としてクマ痕跡観察を行います。クマ棚の特徴や樹皮にできた爪痕の特徴などを記していきます。

 樹皮に刻まれた爪痕のサイズを測り、どんな登り方をしたのか想像しながら調査をすすめます。歩いても歩いても見渡す限りのクマ棚や爪痕が残る木々が続く景色があり、いったい今まで何頭のクマがこの森に集まったのだろうかと思わせられます。

 帰り際にコガラが挨拶に来てくれました。冬毛で丸々としています。

 こちらはコゲラ。コガラと同様に小さな体ながらもブナ林を構成する生態系の中で冬の八幡平でもたくましく生きています。

 ツキノワグマの生態は地域によっても個体差がありますし、今回モニターツアーで観察したことはクマの生態の一端にすぎません。また、まだまだ分からないことのほうが多いかもしれません。ですが図鑑の中だけでなくクマがそこに生きていた証に触れて見ることで何か気づきがあるかもしれません。 

                                        いちたろう