低気圧の影響で雪の降る3月16日、ブナ森を舞台に「残雪のブナ森で熊棚を探そう」を開催しました。
「残雪の…」と謳いつつも雪が降って冬の様相が強まってしまいましたが、降る雪は湿っており春が近づいているのが良くわかります。
秋田八幡平スキー場のあるブナ森を歩いて豊かな森の象徴ともいえるツキノワグマの痕跡を辿り、彼らの暮らしの一端を覗き見る事が出来れば…
そんなイベントの開催です。

リフトでブナ森の上部に降り立った皆さん、スキー場を囲む森へ出発です。

「あっ、あれじゃない⁉」
森に入って直ぐに声が上がり、見上げた先にクマ棚が掛かっていました。

昨年秋は比較的にブナの実が多かったように思っていましたが、クマ棚が沢山あるという事は夏の食べ物の少ない時期から秋にかけて実が成熟するのを待ちきれない気の早いクマが登って食べたのではないでしょうか。
林内のあちらこちらにクマ棚が見られ、冬ごもりに入る前にたっぷりと脂肪を貯えないといけないツキノワグマの必死さが伝わってきます。

どんな木にクマ棚が掛かっているのか調査開始。
幹回りを測って…
本来なら地上130㎝で測りますが、まだ2mを優に超える積雪があるので今回は雪面で計測です。
どうやら、クマにとっては太さよりどれ程実を着けたかがカギのようです。

クマ棚の数を数え…

どんな場所に立っている木なのか。

もちろん爪痕も。
爪痕は幅や古いものもあるのか、どのくらいついているのかも。
沢山の古い爪痕の残る木は、八幡平で生きてきた多くのクマたちが利用したクマにとって良い木?なのかもしれません。

どうやら、葉が茂っても日光が良く届く明るい場所の木にクマ棚が多いようです。
そういう場所の木は実の成りが良いのかも知れません。
見晴らしも良さそうだしね。

ブナやミズナラなどの堅果が乏しい年にはナナカマドなどの液果も食べるので、ナナカマドにも大きな爪痕が。
他にも新芽を食べに登ったのか子供の木登り練習をしたのか、ホオノキやコシアブラなどの柔らかい木には爪痕が深く残されるようです。

クマ棚のない木にも爪痕が。
木の上で休んだりもしますし、何かに驚いて木の上に逃げる事もありますし…
それだけでは語り尽くせない程、あちらこちらに爪痕が残されています。
実の成る木はいつも同じじゃないしね。

途中で見付けた大きなサルノコシカケに座って一休み。
座り心地はいかが?

せっかくの山を下りながらの調査と観察なので、良さそうな斜面は尻滑りもしながら移動。
静かな山に賑やかな声が響き渡ります。
クマが起きちゃうかもよ。

どこまで行くのかしら??

横方向に着いた爪痕は幹に手が回らなかったから?
幹を抱え込むようにしがみついたのは良いものの、ズルッと滑ったのかも。
痕跡の一つ一つで様々な想像が膨らみます。

僅かにカラカラになった実が残ったウワミズザクラ。
これもクマにとってはご馳走。

よく見ると、枝の折られた場所に歯で付けたものらしき傷が残っていました。
冬ごもり以外の時期は食べ物を求めて移動し続けるツキノワグマ。
これは食べられる?食べられない?あれは美味しい?美味しくない?聞けるものなら聞いてみたいと思うのですが…
彼らは山の植物の事なら何でも知っている山のグルメであり、種子散布をしてくれる大事な存在です。

「すごーいっ!」
「何を見つけたのーっ?」

少し古いものですが、ホオノキに長い爪痕が。
木登りは得意ですが下りるのはちょっと苦手でズルズルと長く爪痕が残ります。

大きな樹洞のあるシナノキ。
中でクマが寝ているかもよー。

覗いてみましたが、残念ながらクマの姿はありませんでした。
寝ているところ見たかったなぁ…

クマも居ないので樹洞の一つに腰掛けて記念撮影。
クマになった気分を味わえたかな?

その後も森のあちらこちらにあるクマの痕跡を見ながら、ふわふわの毛で覆われたタムシバの冬芽の上に過行く冬を名残惜しむ雪が降るブナ森を後にしました。

今回のイベントは生憎の雪となりましたが、一度クマ棚を見つけるとそんな事はお構いなしと言わんばかりに痕跡探しに夢中になる様子が見られました。
痕跡がそこにある理由、そこから見えるクマと森のつながりを考えると、彼らが必死に生き抜き豊かな森を創ってきたのだと参加者の方々に伝わっていれば幸いです。
今後もこのような機会を設け、ツキノワグマを始めとする様々な生き物たちの事を少しでも知って頂けたらと思います。

     くどう