3月19日、秋田八幡平スキー場から望む栂森と国見台は、その姿をクッキリと青空に浮かび上がらせています。
少し風もあり雲の動きも早く見え、絶景と風の栂森を堪能できそうです。

固く締まった雪の上に僅かな新雪。
ノウサギやテンの足跡が残された雪の上を軽快に進みます。

経由地のベコ谷地まではブナ林の中をツキノワグマの痕跡や地衣類などを観察しながら歩きます。
積雪期は、グリーンシーズンには見られない木の高い場所や藪で入り込めない場所も見る事が出来るのがメリット。
過去にツキノワグマが越冬に使ったと思われる樹洞、ブナの表皮に着生する沢山の地衣類、ツキノワグマが実を食べるために折ったブナの枝など、どこを見ても興味深いものばかりです。

見上げたブナには、クマ棚とびっしりと生えたヨコワサルオガセ。

少し急な斜面を登り、振り返ると…

木々の向こうに畚岳の姿。
畚岳を眺めながら暫しの休憩です。

まだまだ雪に覆われていますが、日に日に春の気配が色濃く感じられるようになってきたブナ林の中を進むと広い雪原が姿を現しました。
栂森へと続く稜線に繋がる台地にあるベコ谷地です。
せっかくの広い雪原です、フリーウォークでベコ谷地を縦断します。
真っ直ぐに曲がらないように歩く方、あちこち曲がりながら歩く方、フリーウォークは参加者の方々の個性が出て面白いから好きです。

ベコ谷地を通過して再び林の中へ。
小鳥たちの賑やかな声に辺りを見渡すと、ブナの枝を伝うように移動しながら餌を探すコゲラの姿を見つけました。

標高が上がると共に、徐々に植生が変化していきます。
ブナの姿が少しずつ減り、オオシラビソが増えていく中に立つ大きなダケカンバの古木。
周囲をオオシラビソに囲まれツルアジサイが這い、枝分かれ部分にはキタゴヨウも着生させています。
上部を見ると大きめの鳥の営巣痕がのこされていました。
ダケカンバやツルアジサイが葉を広げると周囲からは巣が見えなくなるので、安心して子育てが出来そうな場所ですね。
もしかしたら、下に見える樹洞にも営巣した生き物がいたのかもしれません。

辺りの植生は、すっかりオオシラビソに変わってしまいました。

オオシラビソの間を登り、振り返れば遠く南八甲田連峰の姿も確認出来ました。
写真だと分かりにくいのが残念…

木立の間に見える山並みを眺め、立ち枯れのオオシラビソに着生したキタゴヨウを愛で、雪面に鳥の足跡を見つけたりと、あちらこちらに忙しく目を配りながらの登りです。

オオシラビソの間を抜けて開けた斜面を。
最後の急坂も、苦しくなったら足を止めて景色を眺めれば良いだけの事。
八幡平方向を見ると、畚岳の右奥に岩手山も。
何度見ても飽きない眺望が、「もっと見て、もっと見て!」と後をついて来るようです。

栂森まであと少し。
風が強くなり、オオシラビソには少しですが樹氷の姿も。
ちゃんと、エビの尻尾になっています。
ここから眺める秋田焼山も絶景で、雪に覆われた山肌を雲が落とす影が流れていく様子も感動的です。
足元には風紋も見られ、風の強さを物語っています。

いよいよ風の栂森山頂。

秋田焼山の奥には森吉山、毛せん峠を見れば彼方に秋田駒ケ岳と見渡す限りの絶景に感嘆の声が止まりません。
美しい眺望に、もはや強風も気にならい様子です。

景色も綺麗ですが、春めく中にも未だ雪と氷の世界の栂森・毛せん峠の様子を見るとシャッターを切らずにはいられません。
頑張ってここまで登ってきた皆さんに、栂森は厳しい面だけを見せる訳ではないのです。

厳しい環境下で生きるガンコウラン。
小さな小さな蕾を見つける事が出来ました。
運が良ければ、4月の中旬以降に花を見る事が出来るかもしれませんね。

薄っすらと樹氷を纏ったオオシラビソ。
時期外れのクリスマスツリーみたい。

風の栂森で未だ残る冬の厳しさを体感した後は、毛せん峠を国見台側に少し下りた場所で春の麗らかさの中で昼食。
ほんの少し移動しただけで、風はほどんど気にならなくなる不思議…
お団子、美味しそうです。

昼食後、「ここから見える景色を全部あげる」と言われ、世界征服した気分になって喜ぶ人。
その気持ち、良ーく分かります。

午後の部は尻滑りからのスタート。
笑顔で勢いよく滑り降りる皆さんの、元気な声が静かな山に響き渡ります。

目指せ国見台!
昼食後の急坂は辛いかもしれませんが、下ばかり向いていないで顔を上げましょうよ。

頑張って登った国見台からの眺望に、またまた撮影タイム。
もう、畚岳は何回写真に撮られたのか分からないくらいです。
白い山肌に稜線を縁取る木々、ブナの中に色濃く見えるオオシラビソ、標高と環境で変化する森の様子が一目瞭然です。
さあ、次の目的地は眼下に見える後生掛自然研究路の大湯沼です。

登山道から離れた場所を歩くので、やはり周囲にはツキノワグマの痕跡が沢山。
夏場は人が入り込めない場所なので、ツキノワグマたちにとって安心な場所なのでしょう。

足元をチョロチョロと動く小さなカワゲラ。
おそらく、オカモトカワゲラではなかろうかと…
全く飛ばない訳ではありませんが、翅があるのに雪の上を一生懸命歩いていました。

奇妙な形の木や、コブだらけの木を見ながら歩くと目の前に雪原が広がりました。
もうすぐ大湯沼です。

大湯沼に到着。
活発なマッドポットや噴湯は、地下数千メートルに位置する秋田焼山のマグマ溜まりからの火山性ガスの影響。
普段は立ち入ることの出来ない、少しずつ西側へと移動している大湯沼の最西端の様子を観察です。

大湯沼を見下ろす高台へ。
しかし大湯沼は撮らずに、ここでも畚岳を撮ろうとする人たち…
どれだけ畚岳が好きなんだか。

振り返れば、先程まで居た国見台が遠くからこちらを見下ろしていました。

立ち枯れの木に密集しているのはシロハカワラタケかな?
折れた幹を見ると裏側の様子も観察出来ました。
意外と綺麗と好評でしたよ。

「この木、座れそうじゃない?」と話していたら、本当に座ってしまった人がいました。

最後の締めは尻滑り!
尻滑りというか、ちょっとした滑落レベルの斜面ですが、ちゃんとスタッフが安全を確認しております。
大騒ぎの賑やかなゴールとなりました。

今回のイベントは早春の森の中での自然観察も行え、標高が上がるにつれての植生の変化もじっくりと観ることが出来ました。
そして栂森からの絶景は、見応え十分のものだったと思います。
風の栂森らしく強風に吹かれましたが、その分霞も少なく遠くの山並みまで見る事が出来、この時期ならではの蒼い山並みと未だに見られた樹氷に、暖かくなったり寒くなったりを繰り返しながら春を迎える山の様子を体感できたのではないかと思います。
おかげさまで、今年度最後のイベントは無事に終了となりました。
次年度も、沢山のイベントを計画しておりますので宜しくお願い致します。

     くどう